【事例紹介】貧困の罠:ビクトリア湖Fish for Sexからの脱出

2014年3月

BBC News
BBC News

1.ビクトリア湖の零細女性仲買人の置かれた状況

アフリカ最大の湖で、白ナイルの源流にあたるビクトリア湖は、ケニア、ウガンダ、タンザニアに囲まれ、約2500万人が居住する。約300万人が漁業関連産業に従事し、漁師は、タンザニア101,250(49%)、ウガンダ63,921(31%)、ケニア40,078(20%)で、合計20万5千人に達し(2012年統計)、漁業は、周辺湖畔地域の中心産業のひとつとなっている。

 

ビクトリア湖では、年間百万トンの水揚げがあり、ナイルパーチ(スズキ亜目アカメ科の全長2mを超す肉食の外来魚)やティラピアやオメナがとれる。販売額は国内消費用550百万ドル、輸出用260百万ドルに達する。3か国のうちケニアは、全体の14.8%の漁獲量を占め、年間漁獲量の9割をビクトリア湖に依存している。漁法は、小型の船(手漕ぎや帆船が主流であったが、最近はエンジン付きも出始めている)を使って、刺し網、延縄等による漁業を展開している(トロール漁は乱獲防止と湖底が複雑であるため禁止されている)。

 

大きな魚は中間業者が購入し、加工場を経て市場に回され、一部は輸出され外貨獲得源となるが、規定外や小型の魚は、漁師から水揚げ後女性の零細仲買人たちに直接に販売される。女性仲買人は、魚を購入し、周辺の加工業者や輸送業者に転売して現金収入を得ている。冷凍庫、冷蔵庫、製氷施設等のインフラは整っておらず、ほとんどの魚は、生のままその場で取引される。

 

ビクトリア湖周辺では、「ジャボーヤ」と呼ばれるFish for Sexの習慣があり、女性仲買人が男性の漁師から質の高い魚を仕入れようとすれば、Sexの代償を求められるという悪しき慣行が続いている。女性たちは、しばしば現金500シリング、体を売って500シリング(約6ドル)合計1,000シリング(約12ドル)を支払う。この慣行の影響のためか、この地域のHIV-AIDS罹患率は15%とケニア国内平均の2倍に達しており、このため、漁業関係者の収入の大きな部分がHIV-AIDSの発症を抑えたり、感染防止のための薬剤購入にあてられている。現地の男性の漁師はその半数以上が20歳未満で漁業に従事するようになり、全体の6割がまず小型船舶を保有する父親の船で漁に出るようになりといわれる。そして、その過程で、「ジャボーヤ」に慣れ親しんでいくことになる。彼らの教育レベルは初等教育終了のみが多数を占める。

 

この慣行を打ち破るべく2011年に米国平和部隊のボランティア隊員が、小型ボート購入資金(通常小型ボートは、75,000シリング:900ドル程度)を女性仲買人LA(仮名)に貸付けた。かつてジョボーヤの経験もあり、4人の子どもの親で寡婦であるLAは、調達したボートで4名の男性漁師を雇って漁業経営を開始し、手に入れた魚を仲買人や中間業者に直接販売できるようになった。彼女は、一回の漁で12ドルを稼ぎ、男性従業員に手当を支払い、ボート調達資金の返済にあてることが可能になった。

 

この活動を現地の慈善団体Vが引き継ぎ、No Fish for Sexプロジェクトを推進している。LAは2年間の活動を通じて、当初4人の女性グループが19名のグループへと成長し、13隻以上のボートを運用するに至った。ボートの所有権もまもなくグループに移行することになっている。

 

しかし地域の収入が地域の開発に結び付いておらず、40億ケニアシリング(約480万ドル)が域外に流れていると推察されている。またビクトリア湖は、気候の変化が激しく、嵐や突風で船が転覆することも多く、年間5千名が犠牲になるという危険な湖でもある。

 

2.課題

湖畔地域の貧困の罠である「搾取の構造」の存在を意識し、突破口を見出し、当該地域の社会変革を実現する。

 

3.関係者分析

①ビクトリア湖漁師(男性)

②ビクトリア湖零細仲買人(女性)

③外国人ボランティア(米国平和部隊)と現地慈善団体V

④中間業者(大手の仲買人)

⑤零細魚加工業者

⑥高利貸

 

4.問題分析

①女性は漁師からよい魚を得て生活の糧を確保するためにSexの代償を払う環境に置かれている。男性は伝統的に、ジョボーヤという慣行を父親や兄弟から学んできた。

 

②この慣行の影響で、この地域のHIV-AIDS罹患率は15%で、ケニア国内平均の2倍に達している。このため、収入の大きな部分がHIV-AIDSの発症を抑えたり、感染防止のための薬剤購入にあてられている。

 

③女性たちは、これまで、自分たちで船や網を所有し、実動部隊となる男性漁師を雇うということができるとは考えてもみなかった。外国人ボランティアの取り組み(船や網を調達する資金の提供)が力関係変化に向けての突破口となった。あるNGOがその役割を引き継ごうとしている。

 

④LAのケースから他の零細仲買人の女性たちは自分たちにも同じようにビジネスを行うことが可能であると考えるに到った。しかしながら、船や網を購入しようとしても、そのための手持ち資金はなく(10万シリング:1200ドルが最低必要)、また、女性たちは高利貸し以外に資金調達の方法を有していない。適当な利息で融資を行ってくれる金融機関は、まだこの地域では本格的な活動を開始していない。

 

5.克服すべき課題

①貧困層の女性たちにエンパワーメントにつながる成功事例を紹介し、女性たちの経済力強化によって、男性との力関係を是正することができることを認識させる。

 

②HIV-AIDSの罹患率を下げ、貧困女性たちが薬剤に支払う支出を抑える。

 

③貧困女性が船や網を手に入れて起業することをはじめ、その他のさまざまな資金ニーズに応える金融サービスへのアクセスを可能にするための仕組みを構築する

 

④安全な漁を実施し、地元に付加価値の高い漁業関連ビジネスを可能にするための研修・訓練を貧困女性やパートナーとなる男性に実施し、地元の資金・資源ができりかぎり外部に逃げ出さないようにする

 

6.考えられるプロジェクト

【上位目標】

零細漁業に携わる貧困女性のジャボーヤからの解放によるHIV-AIDS罹患率低下

 

【プロジェクト名】

ビクトリア湖周辺零細女性漁民のエンパワーメントによる生活改善計画

 

【プロジェクト・メニュー】

① ジェンダーの平等や女性のエンパワーメントのための貧困女性や漁民男性の啓発

② 魚 ビジネスに関与する貧困女性の組織化、協同組合の設置支援

③ 小規模ビジネス開始のための活動資金のグループ貸付・貯蓄の導入

④ 漁船や漁具の個人購入、集団購入やレンタル支援

⑤ 全で効率的で持続可能な漁業実施のための研修・訓練

⑥ 獲れた魚の付加価値を高めるための加工・商品化の研修・訓練

⑦ 冷蔵庫、冷凍庫、製氷施設等関連インフラの整備のためのグループ資金貸付

⑧ 船の損傷や漁師の事故死等に備えての保険の導入

 

7.結論

●これまでアクセスする手段を持たなかった貧困女性への金融サービスの提供、ジェンダー平等・女性のエンパワーメント、技術指導・研修の実施等の分野において、NGO/MFIに期待される役割は極めて高い。

 

●MFサービス、とりわけ、漁船や漁具調達のための小規模融資、貯蓄の活用、あるいは不慮の事故にそなえての保険の導入等に向けて、MFIの現地進出へのニーズは大きい。

 

●特に女性たちがグループで資金を調達し、投資する場合は、MFの果たす効果は大きいと考えられる。とりわけ、上述のLAが開始した成功例を面的に拡大し、地域全体のHIV-AIDS罹患率低下と地場産業育成による女性漁業従事者の生活向上を図るには、女性の組織化がとりわけ重要であると考えられる。

 

【参考文献・ブログ】

Mark Lowen BBC News “Kenya's battle to end 'sex for fish' trade, Lake Victoria, western Kenya”

http://www.bbc.com/news/world-africa-26186194

 

Ludovica Iaccino International Business Times, “Africa: 'Sex For Fish' Trade Spreads HIV”

http://www.ibtimes.co.uk/africa-sex-fish-trade-spreads-hiv-1436758

 

The Lake Victoria Fisheries Frame Survey National Working Groups and Regional Working Group, “Regional Frame Survey Report, 2012: REGIONAL STATUS REPORT ON LAKE VICTORIA BI-ENNIAL FRAME SURVEYS BETWEEN 2000 AND 2012”

http://www.lvfo.org/index.php/documents/lvfo-documents/doc_download/75-frame-survey-2012

 

Manyala Julius Otieno, “FISHERY VALUE CHAIN ANALYSIS- BACKGROUND REPORT – KENYA”, http://www.fao.org/fileadmin/user_upload/fisheries/docs/Background_Report_-_Kenya.doc 

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