「ミャンマーの貧困とマイクロファイナンス」
ミャンマーにおける活動状況(BAJ根本理事長)
●ミャンマーは、多民族国家であり、宗教的には仏教徒が60%と多いものの、キリスト教徒やムスリムも存在する(ムスリム人口は全体の4%程度)。
ムスリムはその多くがバングラデシュ国境沿いのラカイン州に居住しているが、1991~92年にかけての混乱の中で26万人におよぶムスリム住民がバングラデシュ側に出国。そこで、国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)は避難民の帰還と定住を進めようとした。
ラカイン州は、豪雨地帯でマラリアの発生率も高く、インフラも未整備な地域である。当時BAJはその前身であるインドシナ市民協力センターという名称で活動していたが、1994年にUNHCRの要請で、ミャンマー・ラカイン州の帰還難民定住促進事業の事前調査を実施し、その後、1995年にミャンマー進出を決定した。
同地では、国際機関や国内NGOからの委託による車両や機械修理や整備事業、女性の生計向上事業、インフラ整備事業、技術訓練事業等を手掛けてきた。ムスリムと仏教徒の対立はしばしばあったが、2012年には、BAJの活動拠点であるバングラデシュ国境沿いのラカイン州マウンドーを起点として、大規模な衝突事件が発生し、一時的に活動を中断せざるを得なくなったが、その後車両整備事業を再開、またHCRの要請でシェルター建設を実施し今日に至っている。
●現在、BAJは、ヤンゴンの他、6つの事務所(マウンドー、シトウェ、タンゴック、マグウェ、モーラミャイン、パアン)を拠点に活動している。このなかのラカイン州マウンドーでは技術センターならびにカレン州パーンでは技術訓練学校を運営している。2012年3月にミャンマー政府公認の国際NGO登録を完了した。BAJは請けた事業について業者に丸投げすることなく、設計、施工から住民参加型で実施してきている。
●活動内容としては、ラカイン州北部の地域開発事業(車両・発電機・船外機などの機械類の整備、コミュニティ・センター修復等インフラ整備、シェルター建設、学校建設(注:日本財団からの委託で5年間100校建設の予定)、中央委乾燥地の生活用水供給事業(深井戸の建設、井戸の修繕、人材育成・ローカルメンテナンスチーム支援)、南東国境の給水整備事業(給水施設建設、井戸の掘削、水質検査)を実施している。技術訓練については、UNHCRの要請を受け、1996年からラカイン州マウンドーで、地元の青年を対象に単気筒エンジン修理コースを実施している。
1988年の民主化闘争以降ミャンマー政府は大学を長期間閉鎖したため技術的水準は低下しており、BAJは2001年9月から2007年3月までラカイン州シトウェで技術訓練学校を運営し、車両整備、溶接、電気コース等で555名が卒業した。また、2014年1月には、カレン州パアンで日本NGO支援無償により技術訓練学校を開校した。Ⅰ年次は建設科を開設してOJTで校舎を建設し、2年次以降は自動車整備、電気配線、溶接のコースを展開する。
●ミャンマーは基本的に農業国であるが、人口6千万人のうち、2国間協定を結んだマレーシアやタイなどへ200万人が出稼ぎに出ており、家族を含めれば400万人に達するという出稼ぎ大国である。人々のメンタリティは日本人と似通っており、草の根レベルでは活動しやすい国であるといえる。ただし、ムスリムに対しては国民の9割がミャンマー人と認めておらず、少数民族との融和を掲げるミャンマー政府にとってこの問題の解決は非常に困難と考える。
ミャンマーの貧困とマイクロファイナンス(黒柳)
①ミャンマーの特徴と現状
●ミャンマーはアジアの中では最後のフロンティアと見做され、豊富な地下資源に富み、人件費は周辺ASEAN諸国に比べ安価。
●地理的にもインド、中国、ASEAN諸国30億人市場へのゲートウェイとして有力。
②ミャンマーの金融システム
●金融システムが不足。
●農村部でニーズが大きい(都市部の貧困率15% vs 農村部29%。)
・農村部で公式な金融システムが利用できる世帯は16% にすぎない。 残り84%は、友人、親戚、近所、高利貸しを利用。
・農業部門の貸出残高は、国全体のわずか2.5% 。
農業セクターはGDPの43%を稼ぎ、人口の54%を雇用。
・国営農業銀行(注:MADB: Myanmar Agricultural Development Bank)の使い勝手の悪さ。
貸出上限額でコストが賄えない。遠い支店を訪問しなくてはならない。
→金利10%/月を超える高利貸しで補てんせざるをえない。
③ミャンマーのMFについて
●2011年末にMFIが法的に認められた。
・参入障壁が低く、法律上は幅広い事業内容が可能。
・2014年2月現在で186のMFIがライセンスを取得。
・ただし事業開始しているMFIは10~20行程度とみられる。
●MFI(MF機関)増加に向けての課題
・金利規制
(参考)貸出金利上限:月2.5%、年30% / 預入金利下限:月1.25%、年15%
・制度リスク: マイクロファイナンス法改正や手続書改定による規制強化の可能性
・インフラの未整備: インターネット環境の整備
・農村部での管理コスト
(具体例の紹介)
1) Mdp(Myanmar Development Partners)
・2012年にMF事業開始。ヤンゴン近郊4事業地で活動。顧客1000名。返済率100%。
2) Socio-Lite Microfinance Foundation
・ヤンゴン近郊3町村でMF実施。顧客7千名。助成金なしで黒字経営。顧客にソーラーライトも販売。
3) CBI(Capacity Building Initiative)
・NGOに組織・個人レベルで訓練サービス実施。
●ミャンマーにMFは必要か
・今後必要な取り組み:懸念すべきは「今ある貧困」よりも、「農村の新たな貧困」と「都市の新しい貧困」
・貧困への転落や都市への移住を防ぐための対策(支援)が速やかに必要
・全国規模で適切かつアクセス可能な金融システムの整備が求められており、MFの需要も大きい
・都市貧困層へのMF提供には、適切なビジネス支援を併せて提供する必要がある
・MFIが農村にも進出するには、「法定金利の緩和」「インフラの発達」など、コストに見合う環境整備が必要
・返済サイクルなど、農村のライフサイクルに適したローン商品開発も必要
・MF発展の過程で、多重債務者など新たな貧困を生まないため、適切な制度設計と情報システム整備が必要
・MFは必要、しかし貧困に対する万能薬ではない。その他の支援との組み合わせが重要
ミャンマーMFに関する文献紹介(事務局)
①ミャンマーでは、2011年11月MF法を施行。MFは貧困削減の手段ととらえられており、サービスの対象は草の根の民衆(grass root people)。
②MFI免許は、法的ステータスを有する内外の団体・企業に開放。
③免許取得の要件となる最低資産額は大きくなく免許取得のハードルは高くない。
免許対象は、預金型MFIと非預金型MFI
(参考)非預金型MFI:最低15百万kyats(150万円程度)、
預金型MFI:最低30百万kyats(300万円程度)
④免許を付与されたMFIの数は急速に増加(13年9月現在166)。但し、生き残れるのは1/5程度とみられており、MFIの持続性確保が課題。
⑤MFの監督当局は、大統領府直轄のMF監督委員会(MSC)と財政・歳入省直轄のMF監督機関(MMSE)。MSCが免許の付与を決定する。監督機関の組織・スタッフの能力強化が焦眉の急。
⑥MFIは、融資、貯蓄、送金、保険、内外からの借入ほかが理論上可能。但し、現状のMFサービスは融資と貯蓄のみ。MFサービス金利には上限下限あり(融資金利上限は年利30%、月利2.5%。預金金利下限は年利15%、月利1.25%。銀行金利は別に中銀が上限下限設定)。最低預金金利と最高融資金利の差は小さい。労働集約的で管理コストの大きいMFIの持続性を如何に確保し、規模を拡大していくかが、ミャンマーにおけるMF産業発展のための大きな課題。
⑦不十分な情報ながら、ミャンマーにおけるMF顧客は280万人、融資残高は2360億kyats(283百万ドル)とみられている。また、LIFT(ドナーグループ)は、ミャンマーにおけるマイクロクレジットへのニーズは10億ドルに達するとみている。
LIFT “Wholesale Microfinance Support Facility: Myanmar” 11/11/2013
http://lift-fund.org/Publications/Wholesale_Microfinance_Support_Facility.pdf
CGAP/IFC ”Microfinance in Myanmar Sector Assessment” Jan.,2013
http://www.cgap.org/sites/default/files/Microfinance%20in%20Myanmar%20Sector%20Assessment.pdf
The Microfinance Law(The Pyidaungsu Hluttaw Law No.13)
The 5th Waxing Day of Nadaw, 1373 M.E.(30th, November, 2011)
http://www.burmalibrary.org/docs12/NLM2011-11-30.pdf
主な質疑
(1)Socio-Liteの例では、金利30%の上限が課されているわりには、非常に利益率が高いという印象をうける。手数料でカバーしているということか。
●Socio-Liteの例では、会社から40数名が派遣されている。施設や従業員の給与等が会社持ちであるためコストが抑えられ黒字になっているものとみられる。Mdpの例では、運転資金はドナーからのグラントを受けているため、コストが抑えられているものとみられる。
(2)ミャンマーのMFの収益性、成長可能性、将来性をどのようにみているか。
●CGAPのミャンマーMF評価では、MFIが提供しうるサービスの中で、実際に提供しているのは小規模融資と貯蓄サービスだけである。そのなかでも貯蓄サービスは浸透していない。他方で、ミャンマーは5つの国と国境を接しており、根本理事長の説明にあったように、ミャンマー人は近隣国に出稼ぎに出ているため、インフォーマルセクターに頼っている海外送金や国内送金サービス分野でのニーズは高いと思われる。さらに保険サービスも有望と思われる。ミャンマーは少数民族が多数存在しており、各地方が、隣接する国々との貿易を通じてビジネスを行うための金融サービスのニ―ズはありそうである。
●BAJは4-5年間レンタル・ショップを運営したことがあり、その中ではトラクターや揚水ポンプや自転車バイクを含め200項目ぐらいをレンタルできるようにしていた。現地の人々はトラクターを必要としていても、調達する元手がない。レンタル・ショップの経験からレンタルのための資金ニーズは存在するといえる。さらに保険もニーズが存在する。国境が開放されることに伴い、自動車でミャンマーからタイを訪れ、そこで事故を起こした時のミャンマーの事故保険はどうなっているのかという照会をうけた。ミャンマーには保険会社が1社あるだけで、補償金額も小さい。今後アセアンの一員として近隣諸国との接触が増えていくときに、他国とのバランスをとっていく必要があるだろう。
(関連質問)レンタル事業や修理事業を外部から来たNGOが行うと、現地人の仕事を奪うことにならないか。
●現地をご覧になるとわかると思うが、現地の農民はなにもない状態で悪戦苦闘している。NGOの事業が現地のひとびとの仕事を圧迫するというレベルにははるかに達していない。
(コメント1)海外出稼ぎに出る人々への支度金の準備とか海外送金のニーズに応えるためのMFのニーズはありそうである。
(コメント2)機材の調達は、コミュニティで協同組合のようなものを設け、共同で購入、維持管理するのが適当であると思われる。
(コメント3)ミャンマーの人々が外国で働くのではなく、国内にとどまって生活できるよう雇用を創出する事業を支援していくべきではないか。
(コメント4)各MFIが100%近い返済率を維持しているというのはにわかに信じがたい。
(コメント5)今次調査を行った限り、ミャンマーにおいて極度の貧困を見ることはなかった(注:本会の訪問は平野部のビルマ族地域のみ)。フィリピン最大のMFIであるCARD MRIは2月にようやくミャンマーにおけるMFIライセンスを取得し事業開始、しかしその準備段階で最貧困層をターゲットにしているようには見えなかった。
(コメント6)現地における外部の団体の活動は、あくまで、ミャンマーの人々の幸せを意識し、部外者の都合を押し付けるべきではない。
(3)ミャンマーにおける国際NGOの進出環境
●2008年のサイクロン・ナルギスの襲来をうけて多くの国際NGOがミャンマーに支援に入り、軍事政権が容認した。NGOという組織形態が認められるということで、それをきっかけにローカルNGOも次々と増えている。国際NGOがミャンマー国内での活動を開始するためには、自分たちの活動に適切なカウンターパートをみつけて、事業計画と資金などを明確にして申請し、承認されればMOU(覚書)を結ぶことを最初にやらなければならない。次にINGO登録が必要で、これは内務省へ申請して承認を受けなければならない。現状で最速1年程度は必要である。
(4)ミャンマーの協同組合は、MFIとしてではなく協同組合としての規制を受けるのではないか。
●ミャンマーでは、協同組合法が1992年に成立している。一方、2011年にMF法が成立して以降、協同組合は2013年9月までの段階で75の組合がMF法のもと、免許を取得している。協同組合はおそらくこの2つの法律に規制されているのではないかと想像する。ただし、実態を承知しているわけでない。